理工学部 物理?材料理工学科 数理?物理コース
宮島信也
行列解析、数値解析、数値計算
岩手大学 理工学部 物理?材料理工学科 数理?物理コース 宮島信也教授は、サイズのとても大きな行列の実数乗とベクトルとの積を含む区間をコンピュータ上で高速に求める手法を確立しました。ただし、扱う行列は、応用上よく現れるある構造をもっていることを仮定しています。宮島教授は、その構造を利用することで、必要となる演算回数と記憶容量を大幅に削減するための定理とその証明を与えました。
本成果により、精度保証付き数値計算法が抱える課題の1つである大規模問題への適用の困難性を解決するための新たな方向性が見いだされました。本研究成果は、中超直播5年9月15日にエルゼビアが発刊する著名な国際学術誌Applied Mathematics and Computationより全世界へ公開されます(本研究論文は、エルゼビアが運営するページScience Directにおいて、先行公開されています)。
コンピュータは計算を間違えることがあります。この原因の1つはコンピュータの中で数字を記憶するのに使用する桁数には限りがあることです。「それでは、桁数を増やせばいいのでは?」と思うかもしれませんが、必ずしもそれで解決できる訳ではありません。実際、次のような例が存在します。
「8桁記憶できる環境で、ある値を計算すると1.1726...となった。次に、17桁記憶できる環境で計算しても結果は1.1726...となった。さらに、34桁記憶できる環境で計算しても結果は1.1726...となった。しかし、正しい値は-0.8273...である。」
この例は「ある桁数で計算した結果とそれよりも長い桁数で計算した結果が一致していれば、その結果は正しい」とは限らないことを示しています。
この問題に対処するための1つのアプローチとして、正しい値を含む区間をコンピュータを使って計算するための手法が研究されてきました。このような区間が得られれば、その区間の中心は正しい値の近似、半径はその近似が取りうるズレ(誤差)の上限とみなすことができます。よって、半径が小さければ、中心は高信頼な近似であると断言できます。また、このような区間を利用して、これまで証明できなかった数学上の命題が証明できるようになりました。このような区間を求める手法を精度保証付き数値計算法といいます。
精度保証付き数値計算が抱える課題の1つは大規模問題に適用するのが難しいことです。(区間を求めない)普通の計算では、演算回数や記憶容量を節約するための様々な工夫がこれまでに考案されてきました。しかし、これらの工夫を精度保証付き数値計算に流用できるかというと、いつでも流用できる訳ではありません。その結果、普通の計算で扱える問題の規模と精度保証付き数値計算で扱える問題の規模には、大きな隔たりがあります。
本論文では、これまでの精度保証付き数値計算では扱うことができなかった、サイズのとても大きな行列の実数乗とベクトルとの積を含む区間を高速に求める手法を確立しました。ただし、扱う行列は、応用上よく現れるある構造をもっていることを仮定しています。この構造をもった行列の実数乗とベクトルとの積は、例えば非整数階偏微分方程式の解を求める際に必要となります。宮島信也教授は、その構造を利用することで、必要となる演算回数と記憶容量を大幅に削減するための定理とその証明を与えました。その結果、あるパソコンにおいて70分かかっていた計算が0.49秒で済むようになりました。また、あるパソコンではこれまでメモリ不足のため計算できなかった区間が計算できるようになりました。これらの成果はエルゼビアが発刊する著名な国際学術誌Applied Mathematics and Computationに掲載されました。本論文の成果は上述の精度保証付き数値計算が解決すべき課題に光を当てています。
題 目: Fast verified computation for real powers of large matrices with Kronecker structure
著 者: Shinya Miyajima
誌 名: Applied Mathematics and Computation
公表日: 15 September 2023
本研究は、以下の研究事業の成果の一部として得られました。
?文部科学省科学研究費補助金?基盤研究(C)「非整数階微分方程式系の解に対する精度保証付き数値計算法の研究」研究代表者:宮島信也